L...


 あの時、あんなに寂しかった灰と白の景色は、青と黄に変わっていた。
 シンはゆっくりと足を踏み出す。一面に咲いた花畑に足を踏み入れるのが、少し心苦しい。
 それでも、彼の表情はかなり穏やかになっていた。あの頃のような、彼を駆り立てる焦燥は何もない。
 シンはふと、湖に向かって柔らかく微笑んだ。
「ステラ……」

 

 

 

『L...』

 もう一度ステラに逢いたいとは思っていた。が、彼女とはもう逢うことが出来ない。それが分からないほど、子供ではなかった。
「ステラに、ただどうしても謝りたかったんだ。」
あの時、どうにか出来たかもしれない。
 フリーダムがデストロイを破壊する前に、もっと…もっと……
 一瞬のことに今更思いを馳せても、それは何ともならないこと。自分の家族の事もそうだった。
「ごめん。ステラ……。俺、まだステラの言葉が分からなくて……」
 漠然と、ここに来れば答えが見つかるような気がした。

 シンは軽く花に会釈をして詫びると、湖のほとりに腰を下ろした。
 何気無い仕草に、後からふと笑みがこぼれる。会釈した花はまるで、ステラが微笑むようだった。
 爽やかな風が一陣、頬を撫でる。それに自然と目が細くなる。
 魚が湖面を跳ねた。
 ゆっくりと広がってくる波紋が懐かしくて、愛しくて、それ故に虚しくて、シンは両膝を抱き寄せた。
「まだ、見付かってないんだ。」
話しかけるような独り言。なのに、青い棺で眠る彼女が、不思議そうに聞き返してくる様が瞼に浮かぶ。
「ステラは『また明日』って言ったけど、俺には分かんない。だって、ステラはマユや父さん、母さん……レイのいる所にいるじゃないか。なのに、『明日』なんて……」
弱音を吐きに来た筈じゃないのに、口から出る。
「ごめん、ステラ」

『シン―――』
「っ!!」
 幻聴か。
 まさかと顔をあげてみると、そこには明るく微笑むステラがいた。どうしてか幻と分かりきっているのに、声は届く。
 ステラはあの時と同じ、蒼と白の空色をした服を来て、湖面に立っていた。
『おかえり、シン』
紛れもない、ステラの姿……―――
『シン。おかえり……』
「ただいま。」
シンは立ち上がり、目線をあわせる。
 手を伸ばしたり、醜く駆け寄る気は一つも起こらなかった。
 ただ互いに微笑みあうだけ。二人にはそれで十分だ。
 ステラは満面の笑みで笑う。
『ステラ、貰った明日、大事にしてた。大事にしてたら、シンに会えたの。ステラ、おかえりって言えて嬉しいの。』
「ステラ、明日って……」
『ステラ、ここにいるの、好き。でも、シンに会えるの、もっと好き。』
「でも、俺は、君を守れなくて……」
悔しさに、自然と拳に力が入り、顔を真っ直ぐ見えない。
 と、饒舌だった彼女の声が突然止まった。
 ケロッとした顔。そしてキョトンとした目でこっちを見る。その赤みを帯びたアメジストの瞳は、シンの言葉の意味に困惑の色を見せた。
「ステラ?」
どう答えて欲しかったのか自分は分からず、こっちも困る。
 泳ぐ視線。
 しばしの膠着を破ったのは、ステラだった。
『ステラ、シンに守って貰った。』
「え……」
『ステラ、怖いもの、無くなった。シンのおかげ。怖いもの、最初から無かったの。』
「でも死ぬのは―――っ!ゴメン、ステラ!」
失言を慌てて取り消そうとするが、目の前の彼女は取り乱す様を微塵も見せない。
『シン。ステラ……明日、好き。シンにまた会えるから。』
思わず目を見開く。
 こんなに穏やかに笑う彼女を、自分は見ただろうか。
 心を覆っていた暗雲が、晴れていく。
 シンは深く息を吸った。大きく深呼吸し、呼気と一緒に後悔も少し吐き出ただろう。
「ステラ。今、幸せ?」
『ステラ、『しあわせ』あんまり分からない。』
困った顔。だが、それはすぐに明るい笑顔になる。
 控えめながら、彼女の表情はすぐに陰を払う。
 『死』に追い立てられていた日々から解き放たれ、明るい表情だ。
『でも、怖いもの無くなって、シンにまた会えて、ステラ、すごく嬉しい。』
あぁ……。その笑顔は嘘じゃない。
 涙が零れそうだった。懺悔か、安堵か、喜びか。それはまだ分からない。
「ステラ。俺、まだステラの『明日』の意味は分からないけど、また会いに来るよ。」
『明日、またシンに会える。』
繰り返して、その確かな約束に嘆息を吐く。
 シンはそれに、ただ笑みを返してやるしかなかった。それでも、今はそれで充分だと思う。

「じゃあ、ステラ。」
『うん。』
【また、明日……】
(ありがとう、ステラ。)

心の中、シンは祈るように呟いて、踵を返した。



END

ここまで読んで下さって、ありがとうございます!
えっと、個人的にシンステは親友以上恋人未満な位置が好きです。
キッカケはジエッジ(ぉぃ)と鈴村さんのアニメ誌でのインタビューです。

 

で、実はこの作品もジャンヌが発端・・・・・・ orz 好きなんです。許してください・・・
今は閉鎖されましたが好きだったサイトさんが、ステラの追悼にジャンヌダルクの『湖』を引用されてまして。
それを今更思い出して、改めて聞くと、ヤバ・・・シンステsongだ・・・///と。是非、聴いてみて下さい♪

タイトルの『L...』は、色々な意味を含めてつけました。そこら辺も感じて頂けると嬉しいです!
LOVE→愛
LAKE→湖
LIKE→好き(~のような)
LONE→孤独の・・・
LONLY→寂しい etc...


では、ここまで読んで頂いてありがとうございました!
06.05.08執筆