…ソレは初めから、そこにあったのだろうか…。
気付いた時には、僕はソレを認識していた。
果てなく広がる、空とも海ともつかないただ蒼い世界…。僕はそこにいる。
そしてそれはまるで窓のように、その蒼の中に異質とも言える白を纏って存在していた。
雲の白とも違う。
泡の白とも違う。
いや、それ以前に僕はこんな《白》を見た事があったのだろうか…。
ふいに手を伸ばすと、僕とソレの距離が縮まる。
遠くにあった存在が、ゆっくりと僕の指先に触れる。
「…これ、立方体…?」
僕の腕で抱えられるほどの大きさ。
ただ、重さというものがコレには存在しているのだろうか…。
僕は言いようのない感触でソレを柔らかく抱いた。
語彙力の無い僕の頭で必死に考えてみる。
が、僕の知っている感覚ではソレを表現するには全く足りなかった。
「…なんで、こんな所にあるんだろう…。」
ようやっと当然の疑問が頭を掠める。
これは箱なんだろうか…。
そう考えてみて蓋らしいものを探すが、それはなかった。
振っても音はしない。
こんなに不思議な存在があるだろうか…。
―――リィン…
ふと、僕の耳に鈴の音が聞こえてくる。
「…お前が鳴らしたの…?」
つい出た言葉は、そんなものだった。
―――リィン…
再び答えるようにソレが鳴る。
「…温かいね…。お前。」
僕はそれを強く抱きしめた。
痛い筈の角は、僕の体を傷つけないようにとするみたいに、何か薄い膜が覆ってあった。
ただその立方体を抱きしめているだけで、僕の心は何だか満たされる気がする。
それほどに温かく、僕はまるでお湯の中にいるみたいだ…。
―――リィン…
ソレに呼ばれたかと思って僕は顔を上げる。
と、誰かに呼ばれている気がした。
行かなければ…。僕は無意識―――いや、本能でそう思った。
「お前も一緒においで。」
立方体はすぅっと僕の体に溶け込んでくる。
「…そう。お前、そんな名前だったんだ。…起きたらどんな言葉なのか、知りたくなったよ…。」
僕は柔らかく微笑むと、僕を呼ぶ声の方に向かって腕を伸ばした。
これから色を染めて、磨き上げて、光るものにする。
それが、お前の名前…――――