Sweet×Bitter


 「お姉ちゃん。そんなに不満そうな顔してたって仕方ないよ?」
「う・る・さ・い。」
ルナマリアはツンケンした態度で艦内を歩く。それに、メイリンは少し悪いと思いながらもニヤリとしてしまった。
 今日は年に一度、そこかしこでチョコレートの話を聞く日。
 最初はくだらないと思っていたが、何だか結局雰囲気に飲まれて作ってしまった。柄に合わないと感じて敬遠していたのに……。
 チョコレートを溶かして固めただけ。
 それでもこの差はなんだと文句をつけたい。ラッピングも中身も、一緒に作った妹とはかなりの差だ。
「やっぱり買ってきとけば良かった。」
「もぉ…。手作りだから価値があるのよ?お姉ちゃんは折角相手がいるんだし。ね?」
「ちょ、メイリン……」
「はい!行ってらっしゃい♪」
「わっ――――!!」

―――― パシュン

「何か用か?」
「ぁ…えっと……用事というか…ちょっとね。」
歯切れの悪い言葉を愛想笑いでごまかすが、いつもの如くクールな恋人は、やや無反応に近かった。
「それ、凄いわね……。」
部屋に入ってきて一番に、机上から溢れんばかりのプレゼントが目に入る。
「あぁ……。」
あまり興味がない返事をするレイ。
 綺麗にラッピングされたそれに、思わず後ろの包みを背中に隠す。こういう時に、メイリンの大胆さが羨ましくなる。
 が、聞かないといけないと思って、意を決して口を開いた。
「あのさ……それってもしかして…バレンタインで貰ったの……?」
「そうなんだが、処分に困っている。」
「ちょ、処分って………」
そこはあまりにもクール。思わずルナマリアも耳を疑った。
「あのね。それは一応思いを込めて皆がレイに渡したものなのよ!?そういう言い方はないんじゃないかしら……?」
ムスッと眉をつり上げて、ルナマリアは頬を膨らませる。
 と、レイはいつもと変わらない様子でルナマリアを振り返る。が、その表情はやや驚きが含まれていた。
「なら、ルナマリアは俺がこれを消費しても不満に思わないのか?」
「え……?」
女心に触れてくるその言葉がレイの口から出てくるのは少し――――いや、かなり意外だった。
「だって………それはレイが貰ったものでしょ?私が何か言える立場じゃないじゃない……。」
「お前以外に、これに誰が文句を言うんだ。」
「そうは言っても………」
何をこんなにも他人を、しかも自分の恋人に思いを告げてくる彼女達をかばっているんだろうか………。
 弁解しながら、段々自分が支離滅裂なことを言っているような気がして、ルナマリアは俯いてしまう。頭を巡る考えに、綺麗(のつもり)に包んだ袋を、力を込めて握り締めてしまう。
「それに、俺は貰う時に既に断っている。」
「――――っ!?」
「それでも貰って欲しいと前置きを貰ってから受け取ったものだ。」
冷静な言葉に、何だかショックを受けてしまった自分が微妙に悲しい。それと同時に、怒りにも似た微妙な感情が湧きあがってくる。
「………じゃあ、そんなややこしい物を貰ってこないでよ!!真面目に作って渡そうとしてるのがバカみたいじゃない!」
「じゃあ、後ろに隠していたのは俺宛か…?」
「……っ!…そ、そうよ!包み方も中身もそこにあるのよりどうせ不細工よ!」
思いがこもっているにしては、突きつけるような乱暴な渡し方。
 誘導尋問のようなレイの物言いに釣られた自分が恥ずかしいのもあるんだろう。
 突きつけられた物を、レイは丁寧に両手で受け取って、珍しく嬉しそうに目を細めた。
 それは滅多に見せない彼の笑みで、思わずそれにドキッと胸が高鳴る。一生、きっとその笑みには慣れないだろうと思う、彼独特の一瞬で虜になってしまう笑み。
 顔が赤くなるのが分かって、ルナマリアは恥ずかしさを堪えるように慌てて踵を返して扉を開けた。
「とにかく!その机の上にあるのは『消費』じゃなくてちゃんと『食べる』って言って!あと……お返し…楽しみにしているから……。じゃあね!」
 包みを開けてみると、そこには料理が苦手だと言っていた彼女らしい不器用な『愛』が書かれてあった。
「ルナマリアらしいな。」
いかにも女子といった風なハート型のチョコレートは、手厳しい彼女に似ているのか、クールな彼に似ているのか、ほんのりと苦かった……。



END