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● 想うこと   アスシン

● 春眠   キラシン

● 祝福の言葉   アスシン

● 親愛なる君へ   シンルナ

● Athena   レイルナ

● Heart   シンルナ

● 六花   レイルナ

● Memory   レイルナ

想うこと

 

 「今年も綺麗に咲きましたね……。」
「そういう割には、君は嫌そうだな。」
「別に嫌いじゃないですけど――――」
 シンはアスランの言葉に語尾を濁し、自分の気まずさを誤魔化すように、その淡く桃に染まった花を見上げた。
 鮮やかに咲いては、散っていく花……。
 それは桜という木で、アスランも小さい時に見たことがあると言っていた。
 シンにとっては毎年のことで、その木の下で家族と花見をするのが恒例で……――――
 でも、もう彼の家族は何処にもいない。皆、土に還ってしまったのだ。


 「もうちょっと、時間がいるかな…って。」
その一言は、アスランに自分の気持ちを伝えるので十分だった。
 微かに、困ったように溜め息を吐いた声がした。
 ムスッと拗ねたようにシンが振り返ると、アスランは肩を竦めて力を抜くと、シンの隣に並んだ。
 だらんと垂らした左手に、アスランが手を重ねる。
 シンはやや驚いて目を丸くし、アスランを見つめる。その視線に目配せすると、二人はふいに桜を見上げた。
「桜が淡い赤色をしているのは、その下に死体が埋まっているそうですよ。」
「そうかもしれないな……。俺達の手は、血まみれだからな。」
「否定すると思いました。」
「それは罪を誤魔化しているだけだ。」
アスランは風に舞って来た花びらを掌に乗せた。
「『いくら綺麗に咲いても、人はまた吹き飛ばす』――――だったか?」
「何でアンタが覚えてるんですかっ。」
つい頬が膨らむ。
「『それでもまた、僕らは花を植える』……キラはそう言った。だからシン。こうして花びらが散ることにも、実をつけるために必要なことなんだ。」
「血に染まった大地に、今度は花を満たすために……」
 アスランの肩に、ふと隣の頭が寄りかかってきた。
「……ロマンチストだなんて、知りませんでした……」
「俺も、今知った。」
柔らかい陽気。隣の温もり。限りある命に、想うことは……―――――


END

春眠

 

 「ふぁ……」
「13回。」
「え?」
あくびについ出た涙を指で拭いながら、シンはソファに横になりながら言った。
 何を数えていたんだろうとキラが椅子から立ち上がると、シンはソファに横になって読んでいた雑誌を慌てて隠した。
 背中に隠されたキラは首を傾げ、シンの足元に座った。

「で?何を読んでたの?シン……っ…」
「14回。」
「え?」
流石にこのタイミングで言われたら気付く。
「もしかして、あくびの数を数えてたの?ごめんね、シン。」
「何回も『ごめん』って言ったら、効果なくなりますよ。」
ぷいと拗ねて、シンは仰向けだったのを横になる。
「ごめんね。呼びつけたのに仕事が終わらなくて。」
「そう思うんなら早く済ませてくださいよ。」
「でもなかなかねぇ……」
ふいにキラが見たのは窓の外。釣られてシンもそっちを見やると、そこには『春』があった。
「窓際の席だからどうにも…ね。」
暖かい陽の光から遠ざかればいいのだが、それはそれでやる気が削げる。と、いうよりも、もう遅い。部屋自体が暖かくなっているのだ。
「こんなにいい天気なのに、出かけられないのは残念だね。」
「俺も足止め食ってるんで早くして下さいよ。今日のデート、楽しみにしてるのに。」
キラは苦笑をすると、15回目のあくびをした。
 流石にここまであくびが続くと、単に部屋の温度が高いだけではない気がしてきた。
「うわっ!ちょ、キラさん!?」
「ごめん。一時間だけ寝かせて……」
「って、なんでわざわざ俺の座ってたソファをベッドにするんですか!?」
「だって、ソファベッドなんだもん。一時間経ったら起こしてくれる?ごめんね……」
シンは体を丸めて瞳を閉じたキラに、もう何も言えなかった。

――――― それから2時間後……

 

「起こしてって言ったのに。」
言っている事とは逆に、キラはふと笑ってしまう。
 自分の隣に寝ているのはシン。
 さっきまで離れるのに少し苦労するくらい、甘えるように胸に抱きついて寝ていたのだ。
 昼寝だった自分とは逆に、昼寝のつもりが完全な休みになってしまったようだ。
 キラはシンに上着をかけてやろうとして、背中の冊子を見つけた。思わず笑みが零れてしまう。
「明日は一緒にお花見に行こうね。」
キラは再び机に戻る。
 窓の外は、未だに暖かい日が差していた……。


END

祝福の言葉

 

 一年で一番嫌な日。けど、一番嬉しい日……
 カレンダー付きの時計に表示された日にちに、シンは軽い息をついた。
 別に意識したわけではないが、何だか今日は都合の良い日になった。
 いつもは起きたらベッドを直せだの何だのと煩い相方は、用事で出かけている。更には運良く艦も近くの街に停泊中で、下船も許可されている。おまけに今日はシフトが入っていない。
 低血圧なためか、起きたてのシンの頭は、かなり回転が鈍い。それでも、今日という休日をどうしようかとのんびり考えていた。

―――― ピピッ…………

誰かが部屋のインターホンを鳴らした。のそのそと重い体を引き摺っていく。
「誰ですか?」
「俺だ、シン。」
開いた扉の前に立っていたのは、綺麗に軍服を着た上官。
 一瞬、なぜそこに立っているのか全くあてのないシンは、ぼけぇ・・・と上官の顔を見上げていた。
 と、アスランが小さく笑いを零す。その声に、シンはまた一歩覚醒に近付く。
「すごい頭だな。ただでさえ跳ねやすい髪が、もっとボサボサだぞ。」
「えっ・・・!」
シンが思わず両手を髪にやった瞬間、アスランが部屋の敷居を跨いできた。
 一瞬の油断。
 一歩の靴音がした次の瞬間には、シンはアスランの両腕にしっかりと抱きしめられていた。
「あ、の・・・・・・アスラン、さん?」
恋人なのだから今更照れることはないはずなのだが、いきなり抱きしめられるのはやはりビックリしてしまう。
「夜、空いてるか?」
「あ、はい。今のところ、予定は入ってないですけど・・・・・・」
安堵の溜め息がしたのが聞こえた。
「また連絡をするから、付き合ってくれ。」
「はい・・・・・・」
が、それを言うだけでどうしてわざわざ――――……

「誕生日、おめでとう。」

瞬間、シンはその真紅の瞳を大きく見開いた。
「すまない。それが言いたかったんだ。じゃあ、夜に。」
照れているのか、いつもの笑みを浮かべたアスランは、逃げるように部屋を出た。
 もう一度扉が閉まる音は、もうシンには聞こえていない。
 思わず膝を追ってしゃがみこむ。
 その顔は、熱でもあるかのように真っ赤にのぼせていた。
「反則だ。あんなの……」
 独特の甘いテノールを耳元で囁かれて、平気なはずがない。あの声にいつも真っ赤にされているんだから。
「バカだ、あの人……」
 挨拶も忘れるくらいで、あんなに顔を真っ赤にして。いつもの上官とは違う、恋人のアスランの顔。
 誕生日の朝一番に聞いたのは、恋人の甘い祝福の言葉だった。


END

親愛なる君へ

 

 とりあえず、コーヒーと朝食を胃に入れないと目が覚めない。
 朝からにしては衝撃的な出来事から頭を切り替えると、シャワーを浴びて食堂に向かった。
「おはよう、シン。」
「ぁ、ぅん……。」
朝のことから、やや思考回路のにぶっていたシンは半端な返事をした。
 低血圧なせいもあるだろう、そのまぬけな顔を、鉢合わせたルナマリアが笑った。
 シンはトレーを手に、目の前にあるメニューに眉を潜める。
「どっちで悩んでるの?」
既に自分のを頼んだ彼女が横から顔を出す。
「AかBのセット。Aの方が値段が高いけど、俺の好きなものばっかりなんだよなぁ……」
「そう。」
と、ルナマリアは悩むシンを無視して、いきなりAセットを注文した。
「ちょ、ルナッ!?」
「え?Aセットが食べたかったんじゃないの?」
「そうだけど……」
「それに、今日は誕生日でしょ?」
フフッと目を細めて、少し得意そうに笑う。
「本当は、プレゼントを渡す時に言いたかったんだけどね………」

「お誕生日、おめでとう。」

親愛なる君へ……――――――


END

Athena

 

 

 奔放な愛しい君。
 表情が豊かな君が、ただ愛しくて、愛しくて・・・・・・。
 そんな事を考えながら、レイは延命の薬を飲んだ。
『やるな、ルナマリア。』
『忘れてた?私も赤なのよ。』
 忘れていた訳じゃない。
 ただ、守る事が当たり前のようになっていた。
 戦うのは、己の守りたい者を守るため。
 議長の言葉以上に、目に映る彼女を守りたかった。
『ルナマリアは無事だ。彼女を信じてやれ・・・・・・。』

 これは、自分に言い聞かせた言葉。
「ルナマリア・・・。」
呟いた声は、自分でも驚くくらい優しかった。
 生まれつき命が短いのなら、この命は議長と、紅い機体を纏っていたAthenaの為に。
 この命が、愛しい君への未来を作るように・・・。


END

Heart

 

 全てが終わったと思った・・・。
 あの、メサイアが炎に包まれる姿を見た時に・・・・・・――――
「ごめっ・・・ルナ・・・!ルナァ・・・!!」
「大丈夫だから、シン・・・。」
しがみつくように体に腕を回すシンに、ルナマリアは瞳を伏せて、優しくその体を抱きしめてやった。
「大丈夫。分かってるから、もう泣かないで・・・・・・。」
「ぅくっ・・・ぁ・・・あ、っ・・・」
シンの嗚咽が耳に痛い。こんなに小さな青年が・・・・・・。
 そう考えると、ルナマリアは腕に抱く彼を強く抱き寄せた。
「シン。皆、大丈夫だから。生きてる。」
「生きてる・・・・・・?」
その言葉にようやくシンのしゃくりあげる声が止まって、ルナマリアは笑顔よりも安堵の溜め息が先に漏れた。
「シンが、私のことを守ってくれたんでしょ?」
「・・・けど、俺はルナの事・・・・・・」
思い出しただけで手元が震えてくる。あの時、アスランに止めてもらってなかったら・・・・・・――――
 守ると決めた存在を、自分はまた失くしていた。
「けど、シンがいたから私は今日まで生きてこれた。オーブの時も、クレタ沖も、ヘブンズベースも、全部・・・シンが私を守ってくれたんでしょ?」
「ルナ・・・・・・」
抱きしめていた腕を解くと、ルナマリアはシンの手を取った。
 その仕草は、パイロットスーツ越しでも温かさが伝わってくるようで・・・・・・。
 シンは僅かに動揺した瞳でその薄紫の瞳を見つめる。
「色々、守れないものはあったけど、でも・・・私はここにいる。大丈夫。ちゃんと、シンに守ってもらってる・・・・・・。」
胸に当てられる手は、確かに鼓動を感じている。こうして、目の前で笑ってくれているルナマリアの存在を。
「守ってくれてありがとう。シン・・・・・・」
シンは強く首を振った。
 違う。自分はルナマリアから全部奪った。戦う為の武器も、大切な家族も、慕っていたかもしれない人も、何もかも・・・・・・。
「何で、そんな―――」
「私も、守りたかったから。」
「―――っ!」
「私も、シンのことを守りたかった。・・・いっつも一人で行っちゃうんだから。そりゃあ、実力が違うのなんて分かりきってる事だから今更言わないけど・・・でも、私もシンを守りたかった。本当に・・・・・・。だから、こうしてありがとうって言えて良かった。」
にっこりと微笑むルナマリア。
 シンは再び涙が零れそうになったのを必死に堪える。
「どうして・・・ルナも、ステラも・・・・・・っ・・・」
「・・・オーブ、撃たれなくて良かったね・・・。」
シンはただただ頷くばかり。
「これからは、一緒に守っていけるよね。」
強く手を握り締められて、シンはルナマリアに抱きついた。
「ね?シン・・・・・・。」
「・・・っ・・・ん・・・。一緒に、守れる・・・。俺が・・・守るから・・・・・・――――」
腕に抱きしめるこのぬくもりは、一生忘れない。
 シンはそう、涙に暮れながら心の中で誓った・・・・・・。


END

六花

 

 「これが本物の雪なのねぇ・・・・・・」
プラントでしか生活した事がないルナマリアにとって、地球で見る本物の雪はそれなりに感動的なものだったらしい。
 が、数歩後ろを歩いているレイには、あまり雪は興味がないらしい。いや、むしろ普段殆ど不満をいう事のない彼が、寒さに対してボソリと不満を漏らしたのは珍しいこと。
 「こんな綺麗な雪が、あの鉛色の空から降ってくるだなんて、ちょっと不思議ね。息も白いし。これが本当に感じる冬なのね・・・・・・。」
「ルナマリア。艦に戻ろう。こんな所にいたら風邪を引く。」
「それもそうだけど、レイはこの寒いのが嫌なんでしょう?」
図星に言葉が詰まるレイが更に珍しく、ルナマリアは小さく笑った。
「レイ。もう少しだけ。・・・・・・もうちょっとだけ、雪を見ていてもいい?」
それをルナマリアに頼まれれば、嫌だと断れるはずがない。
「ルナマリア。そんなに雪が珍しいのか?」
「それもあるけど、別に珍しいっていう事にそんなに感動はしていないかな。・・・凄く、単純に綺麗だなって感じたから、もう少し眺めたかっただけ。・・・・・・血生臭いのも、消してくれるかなって・・・・・・」
自分達は軍人。美しいものを守るために戦っているが、その壊そうとしているものですら、美しいものだと忘れている。
 いや、それを押し込めておかなければ、相手を制することは出来ない。
 レイは自分の首に巻いていたマフラーをルナマリアにかけてやった。
「レイ・・・・・・」
「雪の結晶の形は華だそうだ。だからルナマリアが雪を美しく感じるのも当然の事なんだろうな・・・・・・。」
「きっとそうね。」
「それなら、俺達はこの花々が咲くに相応しい大地を作って守る事が、きっと役目なんだろう・・・・・・。」
「そうだと嬉しいわね・・・・・・。」
こんな世界の中であなたといる事に、意味があるなら・・・・・・――――


END(06.冬)

Memory

 

 「ねぇ、レイ。ちょっと懐かしくない?」
何が。とでも言いたそうなクールな表情で、レイはルナマリアが指を差した方を見やった。
 そこにいたのは、ザフトの士官学校に入学する新入生たち。
「そうか・・・。今日はそういう日だったんだな。」
「そういう日だったみたいね。」
ルナマリアはふふっと笑って見せる。
 真新しい制服はまだ体に馴染んでいないらしく、言葉も変だがなかなか面白い。
 制服に着せてもらっているという感じ。あれが訓練を重ねていってしっくり来るようになった頃には卒業なのだ。
「つい、この間のような気がするな・・・・・・。」
「ちょっと驚いたわ。レイの口からそんな言葉が出るなんて。あたしはてっきり、くだらない事って言われちゃうと思ったのに。」
「友人や同志と過ごす時間は貴重だ。ザフトに行った時、それがそのまま連携を生み出す関係になる。」
「・・・ちょっと硬い表現。」
「そうか?」
そこで首を傾げて、ようやくルナマリアのしっくりいかなかった部分が消える。
「やっぱり、そういうのがレイらしいわね。変な感じだけど。」
舞い散る桜に、髪をかき上げる。
「レイは最初からちょっと手の届かない存在だったけど、やっぱりそういう所にいて欲しいわ。」
「いきなりどうしたんだ?」
「ん・・・ちょっと、自分が軍に入る時に決めたことを思い出したから・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
レイはそうとしか言ってやれない。
「うん。」
手の届かない所にいて。そうしたら私は、あなたに届くために、もっと上を目指す・・・・・・。

 

 

 

「はい、卒業記念撮るからねぇ!」
セルフタイマーのカメラをセットしたメイリンが戻ってくる。
 レイの隣には、彼と同じ『赤』を着た彼女がいた・・・・・・・・・


END